卒業生の声
第1期生(2024年6月卒業)
三木真隆さん

~いつか農業をしたい人へ~
60歳で就農を予定していた僕が35歳で農家になった理由
紹介
出身地:大阪府
前職:ITエンジニア
家族構成:妻、子
研修開始時の年齢:30代
栽培方式:高設栽培
農地面積:17a(いちご本圃栽培面積12a)
投資額:3,000万円(うち補助金1,000万円、融資2,000万円)
農学部からITエンジアを経て「農家」へ転身

果物農家の成功例が教えてくれた、農業の新たな可能性
三木真隆さんは、かつてITエンジニアとして製造業向けの生産管理システムや基幹システム(ERP)の開発に携わっていました。大学では農学部に在籍し、当初は動物やDNAへの関心がありましたが、在学中に話題となっていたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の議論に触れ、日本の農業が持つビジネスとしての可能性に魅力を感じるようになりました。
「ももをはじめとする果物で成功している農家の話を聞いて、農産物も高付加価値の商品として輸出できると知りました」
この関心から農業系のコースを選択。しかし実家が農家ではなかったこともあり、いきなり農業の世界に飛び込むには不安があったといいます。そこで大学で培ったITの知識を活かし、卒業後はIT業界に進む道を選びました。
「将来的には、ITの経験を農業に活かしたいという思いは、ずっと持ち続けていました」
30歳を機に農業への道を真剣に模索。そして決断
30歳を迎えたころ、「このまま今の仕事を続けてよいのか」と自問するようになった三木さん。もともとは定年後に農業を始めるつもりでしたが、農業は地域との関わりが不可欠な仕事です。年齢を重ねてから地方に移住しても、地域にすぐなじめるとは限らず、次第に早く始めるべきだと感じるようになりました。
33歳のとき、コロナ禍でリモートワーク中心の働き方となり、時間的な余裕が生まれたことをきっかけに「今がそのときだ」と決断。若いうちに地域に根ざす方が、受け入れてもらいやすく、長く続けられると考えました。
収益性と管理性の高さで「いちご」を選択
収益性の高い作物を調べる中で、施設栽培は露地栽培に比べて反収(単位面積あたりの収穫量)が高く、天候や人手の影響を受けにくいことを知りました。温度や水分などを自分で管理できる点にも魅力を感じたといいます。
なかでもいちごは、高単価で販路開拓もしやすく、管理によって品質を高めやすい作物。こうして「いちごをやろう」と決め、就農準備を本格化させました。
紀の川アグリカレッジを選び、信頼できる師匠と出会えた

研修前に「見て選べる」仕組みが安心感に
紀の川アグリカレッジを選んだ理由の一つは、運営母体が企業ではなく自治体で安心感があったこと。少人数制で、同期との情報交換や相互の刺激も期待できる環境でした。
年2回開催される現地視察会や見学会に参加。研修生を受け入れるいちご農家のハウスをすべて見学し、それぞれの経営スタイルや栽培方法を比較することができたのは、研修先選びの大きな判断材料になりました。
「自分の目で見て、考え方の合いそうな農家さんを選べたことは、安心してスタートを切るうえでとても大きかったです」
農地探しやハウスの確保は、師匠やアグリカレッジの支援が後押しに
農地探しでは、アグリカレッジの名刺や広報誌による地元への周知が大きな後押しとなりました。地域の人々に顔を覚えてもらえたことで、信頼を得やすくなったといいます。
ハウスも、師匠の紹介で建設会社から相場より良心的な価格で譲ってもらうことができました。整備作業の多くは三木さん自身が行いました。研修に通いながらの作業で、ゴミの撤去だけでも3か月。その後、業者に古くなった配管を掘り返してもらい、土地を整えていきました。補助金の手続きなどもあり、すべての作業が完了するまでに半年ほどかかりました。
就農後、初めての試練|環境整備の大切さを痛感

卒業後も続く師匠とのつながり
アグリカレッジ卒業後も、師匠との関係は継続。ときには師匠から連絡があり、意見を求められることもあるそうです。人件費や雇用の段取りといった経営面についても相談できる存在で、「困ったときにすぐ頼れるのは本当にありがたい」と語ります。
現在は、紀の川市内の産直マーケットが販売の中心で、売上の約9割を占めています。残りの1割ほどは、師匠が運営する「ふるーつふぁーむわかやま」に買い取ってもらっています。
「就農1年目は、販路を広げすぎないようにしました。まずはちゃんとおいしいものを作れるかどうか、それが最優先でした」
出荷したいちごは、知人や友人から「今まで食べた中で一番おいしかった」と言ってもらえることも多く、自信につながっているといいます。
高温でピンチ!ミツバチが働けず、いちごの形がいびつに
就農1年目の春、気温の急上昇によりハウス内が高温となり、ミツバチが受粉できず奇形果が多発する事態が勃発。売上は計画の3分の1に落ち込みましたが、自らジュース用の販路を確保し、出荷につなげました。
原因は換気構造にあり、三木さんはすぐに南北の窓を追加する工事を実施。
「就農前に風の流れや温度管理を体感しておくことの大切さを痛感しました。栽培技術だけでなく、環境制御も農業には欠かせません」
定年後では遅すぎる。農業を始めるなら今!

前職の経験を生かし2年目はさらなる前進をめざす─広がる農業の未来図
就農1年目を終え、2年目に向けてパートやアルバイト従業員雇用も視野に入れている三木さん。今後は、ITエンジニアとしての経験を生かし、ハウス内の環境制御について自作のシステムで効率化を図っていきたいと意欲を見せています。
また、現在は産直スーパーが主な販路ですが、ホームページやECサイトを立ち上げ、販売の幅を広げていく計画です。さらに、隣接する空きハウスを活用し、3年以内にいちご狩りができる観光農園として整備する構想も描いています。
農業にチャンスあり!「若いうちに始めてほしい」
三木さんは、自分自身の経験から農業に興味を持つ人に対して「若いうちに始めること」を勧めています。早期に就農することで、地域に受け入れてもらいやすく、関係性も築きやすいと感じているからです。
特にいちごは、初期投資はかかるものの、販売しやすく収益も安定しやすい作物です。しっかり学び、ていねいに取り組めば、生計を立てることは十分に可能です。
「もちろん、いい加減なことをしていたら続きません。でも、やる気があって学ぶ意欲があれば、道は必ず開けます。自分も、1年目で事業計画どおりの収入に近いところまで達成できました」
事前にある程度の蓄えが必要なのは確かですが、それさえ準備できれば、不安は大きくないといいます。三木さんは、最低でも3年間生活できるだけの自己資金を用意していたそうです。
「農家の高齢化が進み、借りられる農地も増えてきています。農業を始めるチャンスは、まさに今です。興味があるなら、ぜひ飛び込んでみてください」
※2025年5月時点の情報です。