卒業生の声
第1期生(2024年6月卒業)
藤田大介さん

金融マン、いちご農家になる!
起業に農業を選んだ理由
紹介
出身地:大阪府(研修前は東京都在住)
前職:大手証券会社勤務
家族構成:妻、子
研修開始時の年齢:30代
栽培方式:高設栽培
栽培面積:いちご10a、レモン35a
投資額:3,300万円(うち補助金1,500万円、融資1,800万円)
独立・起業を目指してたどり着いた「農業」という選択肢

藤田大介さんは、東京の大手証券会社で勤務しながら、いつかは自分自身で独立し、起業したいと考えていました。仕事を通じて企業買収・売却(M&A)をサポートする中で、中小企業の事業継承という選択肢に可能性を感じるようになったといいます。
妻の実家がある紀の川市での定住を考えていた藤田さんは、有楽町のふるさと回帰支援センターを訪問。和歌山県ブースで「紀の川アグリカレッジ」のパンフレットを入手したのが、農業という新たな道への第一歩となりました。
経験と勘にたよらない、科学的な環境制御によるいちご栽培に可能性を見出す
農業に対しては「経験と勘がモノを言う職人の世界」というイメージを持っていた藤田さん。未経験の自分にはハードルが高いと感じていました。
「子どもが生まれたばかりで、新しい世界に飛び込むことへの躊躇もありました。しかし、本を読んだり自ら情報収集したりするなかで、いちごの施設栽培では環境を科学的に制御する技術が発展していることを知り、それならゼロからスタートする自分にもできるのではないかと思いました」
いちごの事業モデルや売上データをもとに家族を説得
埼玉県のいちご農家を訪問し、事業モデルや収支計画を確認した藤田さんは、未経験者でも成功できるチャンスがあると確信。年収1,000万円に近い水準まで到達できると見込み、証券会社を退職して農業への一歩を踏み出す決断をしました。
「家族の同意を得るためには、和歌山県のブランドいちご「まりひめ」の単価推移や売上データを示して、理解してもらえるように努力しました。最終的には、紀の川アグリカレッジの研修先「紀のファーム」の経営者が妻の同級生だったこともあり、直接話を聞く中で信頼を得ることができました」
研修と就農を通じて得た「農業」への確かな手応え

いちご栽培の実務をじっくり学び、農業経営への基礎を習得
紀の川アグリカレッジでは、研修先農家での栽培実習、座学などを通していちご農家の基礎を徹底的に学びました。
また、オンラインで他府県の農家と交流する機会もあり、広い視野を持つことができたと振り返ります。研修を通じて農業経営のリスクヘッジの重要性にも目を向けるようになり、いちごと並行してレモンの栽培を検討することにしました。
農地確保を見据えたネットワークづくり
研修中に地域の農業振興局や農業関係者と信頼関係を築き、農地の確保やハウス整備に向けた支援やサポートをしてくれる方にも出会えたといいます。引退予定だった農家から農地をスムーズに引き継げたことも、大きな成果でした。
「引き継いだ中古ハウスは骨組みだけ残し、内部設備はすべて新調しました。予算オーバーにはなりましたが、質の高い設備を導入できました」
補助金活用の実際と自己資金の使い道
就農にあたっては複数の補助金を利用。経営開始資金をはじめ、いちごのハウス建設には県の事業や紀の川市の事業を利用し、初期投資額は総額3,300万円に。さらにレモン栽培でも補助金などを活用したほか、東京23区内から紀の川市への移住に関しては100万円の移住支援金を受け取り、自己投資を抑えることができました。
自己資金として用意していた約1,200万円は、作業場として使用している古民家とそれに付随する農地の購入資金のほか、研修期間中の生活費に充てました。
農業は、努力が結果につながる自由度の高いビジネス

進化する農業技術で、省力化と高品質化を両立
気候変動の影響を受けやすい農業ですが、施設栽培では科学的な環境制御により安定した成果を上げることが可能です。藤田さんも、積極的に新技術を導入しています。さまざまな防除技術を総合的に組み合わせて雑草や病害虫の発生を抑制する技術(IPM防除)により農薬散布の回数を大幅に減らし、作業負担を軽減。さらに、遮熱効果の高いビニール資材を導入することで、ハウス内の温度を通常より2〜3度下げることに成功し、収穫期間の延長も見込めるようになりました。
技術革新が新たな農業スタイルを支えています。
販路は市場出荷8割、直売所2割。それぞれに長所がある
研修2年目には、自ら企画して市場関係者を招き、勉強会を開催した藤田さん。紀の川アグリカレッジの同期や後輩にも声をかけ、販路拡大に向けた知見を深めました。
現在、出荷の8割は市場向け、残りは地元直売所やスーパーの産直コーナーへの納品です。市場出荷は集荷の手間が省ける利点があり、直売所では直接お客様の声が届く喜びもあります。
「今年は売上1,000万円程度を見込んでいます。さらに販売戦略を工夫して現在の1.5倍の収入を目指したい」と意気込みます。もちろん、すべてが自己責任となる厳しさもありますが、「だからこそ、頑張った分だけ結果が返ってくる」とやりがいを実感しています。
起業を考えているなら「農業」は有力な選択肢のひとつ

農業法人化を見据え、栽培面積拡大と従業員雇用を視野に
独立就農後、1作目のいちご栽培を無事に終えた藤田さん。現在管理しているいちご10a、レモン35aの栽培面積を、今後は2ha、3haへと拡大し、農園の農業法人化を目指しています。来シーズンからはパート従業員や学生アルバイトを雇用する予定で、安定的な雇用を継続していくために、夏場に収穫できる作物も取り入れ、年間収益を確保する体制づくりにも取り組む計画です。
さらに、地域活性化にも意欲を見せています。購入した古民家を活用し、学生や若手農業者が集まれる拠点づくりを構想中。
「若い世代がチャレンジできる環境を整えたい」という思いが、藤田さんの原動力です。
先輩の背中を追いかけ、素直に学ぶことが農業への近道
これから農業や起業に挑戦したいと考えている人へのメッセージを聞いてみました。
「気合いと根性はもちろん必要ですが、素直に学び、信頼できる仲間をつくることが何より大切です。農業は、初期投資は高額になりますが、補助金などのサポートも手厚いです。これまでは、大規模にやらないとコスト的に合わないと言われてきましたが、技術の進化で10a規模の設備投資でも収益が上げられ、未経験者にもチャンスが広がっています。本気で取り組めば、道は開けます」
生業としてだけでなく、経営者意識を持って農業ビジネスの世界に飛び込んだ藤田さん。未来を見据え、自らの手で道を開く挑戦は、これからも力強く続いていきます。
※2025年4月時点の情報です。